~里山と農家レストラン・目指すは行きつけの畑・農業~<樹木医・冨田さんと巡る>藤沢北部の里山で山野草に親しみながら自然の恵みを味わい尽くす

藤沢市の北部に、地元農家のみずみずしい旬野菜と手入れの行き届いた山野草が咲き誇る「遠藤まほろばの里」があります。
里での中心舞台は関東で初めて農家レストランの認可を受けた「いぶき」。
地元農家の夢は、ここから広がり続けています。
旅の案内人は、農家レストランいぶきの立ち上げに尽力された樹木医※の冨田 改(とみた かい)さん。
遠藤の自然を知り尽くす、里山里地づくりのプロフェッショナルです。
里山の自然形成と都市型農業を一体で展開している「遠藤まほろばの里」へ。
さあ、滋味あふれる体験に出かけましょう。
※注 樹木医は、樹木の診断・治療、後継樹の育成、樹木保護に関する指導を行う資格を持った専門家です。
旅の始まりは、藤沢北部の大地に建つ農家レストラン
朝露が残る早朝、開店を待つ「農家レストラン いぶき」
藤沢市の南部には、江ノ島や湘南の広大な海が、そして北部には、肥沃な大地が広がっています。
この旅の集合は藤沢市北部、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス近くの遠藤地区に建つ「いぶき」。2018年5月に国家戦略特区の認可を受けて誕生した、関東では初の、全国では6例目となる“農家レストラン”です。
農家レストランは、農家自らが育てた農作物や地産品を材料として加工・調理し、飲食を提供する場所のこと。管理自治体が特例として認めなければ、農用地区域の中で営業することはできません。2020年3月から、この特例制度が国家戦略特区の枠から全国展開されることとなり、「いぶき」はその先例として、関東圏の営農者から注目を集めています。
樹木医の富田さん。樹木の診断・治療、後継樹の育成、樹木保護に関する指導を行う資格を持つ専門家
このレストランの立役者が、冨田 改さんです。「実家が農家だから、近所で荒れていく遊休農地を見ていて放っておけなかった」と遠藤地区の場づくりに奔走。地域の農家と交渉を重ねて土地を借り、近隣から古民家を移築しました。冨田さんは、「NPO法人里地里山景観と農業の再生プロジェクト」の代表を務め、100年後も続く活気のある場所を作りたいと今も元気に活動されています。
「ここはあくまでも舞台なんですよ」と冨田さん。
「場を作れば人が集まる。僕が初めた“いぶき”という舞台を利用して、地域の農家がどんどん生き生きとするといいなと思っています。面白いですよ、誰かがアイデアを出すと、また次々とアイデアが湧き出てくる。土地からさまざまな息吹が噴き出すように、それぞれが思いついたことを思いのままにここで開催するといった夢が広がりますよね。そして100年後には、土地も人も肥えて、今よりもっと活気ある“まほろばの里”になることを願っています」と樹木医ならではの視点も交えて語ってくれました。
いぶきのウッドデッキに出て、冨田さんと語らう
五感を澄ましながらの山歩き。冨田さんに学ぶ里山の在り方
藤沢えびね・やまゆり園で、山の手入れについて教えていただく
レストランから徒歩約2分の「藤沢えびね・やまゆり園」へ向かいましょう。
こちらは、冨田さん代表のNPO法人が手がける山野草園です。すべて手作りという垣根の先にある里山は、何も知らなければ自生した植物による景観に思えますがそうではありません。訪れた人がちゃんと山野草が楽しめるよう、季節ごとの見映え、咲く花の種類、そして足で感じる山の感触までイメージして、丁寧にデザインされたものです。
「人が手を入れなかったら、雑草だらけ竹だらけになって日が入らない荒れた山になってしまいますよ。人の生活圏も山も同じ、手をかけるほど豊かに育ちます。15人ほどのボランティアスタッフで管理しているけど、根気がなかったらここまでの景観になりません」と冨田さんの話にも熱がこもります。
樹木医ならではの目線で次々に語られる自然と人との付き合い方。訪れたのは開園前の時期でしたが、4月から8月のオンシーズンには、植えた花がさまざまに開花して賑やかになることでしょう。
空が明るく見えるのも木々を剪定しているから
ふっかふかの土の感触や香りを味わう収穫体験
春夏秋冬、肥沃な土地が、大地の恵みを届けてくれる
次に案内していただいたのは、農家の畑。旬の野菜を収穫できる農業体験が近隣の契約農家の畑で行えます。ジャガイモ、菊芋、ニンジン、トマト、ナスにブルーベリー、大根や白菜などの葉物など、時季に合わせた収穫が楽しめます。
無農薬で耕作された土は、足裏が喜ぶほどにふっかふか。微生物の作用による良質の腐葉土が元気な野菜を生み出す源になるそう。栄養たっぷりの土の絨毯が育んだピカピカの野菜を収穫できると、子どもみたいに思わずはしゃいでしまいます。都心からもアクセスしやすいため、行きつけの畑のように訪れてほしいとのこと。家族連れで1年を通して体験するのもいいですね。
この日の収穫は「ヤーコン」というキク科の野菜。根こそぎ掘れると快感!
そのままかじると梨のような食感で甘みを感じる。オリゴ糖がたっぷりだそう
砂糖を控えめに、発酵調味料にこだわる自家製料理
自家製ひしお漬け唐揚げ3種・低温熟成蒸し鶏 自家製塩麹ソース・本日のお惣菜6種・本日のサラダからなるミックスプレート
山の散策、畑仕事でひと汗かいたら、「いぶき」に戻って食事タイムです。南面に開いた窓から庭の緑を望みつつ、空きっ腹を我慢しながら待ちましょう。しばらくすると、美味しそうな香りとともにお待ちかねの料理が運ばれてきました。
天井が高く、明るい陽の光が差し込む「いぶき」店内
農家が手塩にかけた旬の食材を発酵調味料で味付けした、その名も「発酵ミックスプレート」です。店で仕込んだ「ひしお」や「甘酒」、「塩麹」などの発酵調味料が効いていて、ひと口、またひと口と箸を進めるごとにそれぞれ異なる味わいが楽しめます。酵素たっぷりで腸活にも効果が期待できるとあって、食事目当てに訪れる地元客も多いそう。素材の味を大切にした、まろやかで優しい味わいを頬張るたびに、疲れた体が癒されていくような気がしました。
ひしお(醤)は麦や大豆に塩を加えたペースト状の発酵調味料。古くは奈良時代に中国から伝来されたそう。
長く付き合いたくなる人と土地、それが藤沢北部の魅力
この土地にはまだまだ可能性が眠っていると言う冨田さん
首都圏からのアクセスが良く、気軽に楽しく里地里山に親しむことができる藤沢・遠藤地区。ここにある「遠藤まほろばの里」は、冨田さんを代表とするNPOのみなさん、そして地域農家のみなさんの夢の形の一つです。この場所を生かした体験イベントや里山開発を、今後も進めていくそう。
実は冨田さん、樹木医の弟子たちの修練の場としてもここを活用しているとのこと。近々、次の世代を担う若者と一緒に、「いぶき」のシンボルツリーでもある枝垂れ桜の大木に、八重桜の接ぎ木を試みるつもりだと笑います。
得た知識は後進に伝えてこそ、土地は人の手を加えてこそ生きるもの。冨田さんの案内で、八重の花咲く桜を見ながら、「いぶき」の料理を楽しめる日が近いかもしれませんね。
農家手作りのジャムや採れたて野菜を旅の土産に
このツアーは現在企画中です。
今後実施予定です。